2014年後半の映画から

poster2

WOOD JOB! 2014矢口史靖
寡聞にして公開時(5月)、この作品を知らなかった。秋になって二本立ての一本として見たが、久しぶりに見る日本映画の快作。
草食系男子が一転筋肉系に変身する過程を笑いと興奮で描く林業エンタテインメント。『スウイングガールズ』、『ハッピーフライト』を撮った矢口史靖監督だけのことはある。
ケイタイは圏外、コンビニはゼロという今の男子ではとても生きられそうにない環境の中、主人公は野蛮な村人や過酷な林業に耐え兼ね、逃走を企てるものの、次第に野趣あふれる田舎暮らしに魅かれてゆく…。
三重県の山奥、美杉村でロケしたというCGなしの土臭く、泥臭い画面がいい。クライマックス、千年檜を伐り倒した御神木を木製レールで滑らせる、土地のお祭りシーンが圧巻。この作品もっと評価されていい。

2014092

ジャージー・ボーイズ Jersey Boys 2014米 クリント・イーストウッド
この数年に見た音楽映画では一番。
『シェリー』などをヒットさせた「ザ・フォー・シーズンズ」の実話であり、ブロードウエイの人気ミュージカルの映画化という。
下積み時代から栄光の座へ、その間の仲間割れ、挫折、家庭の崩壊など展開は類型的なのだが何かが違う。そこを分析できないのは口惜しいが、イーストウッドの腕か。
ラスト、マフィアのボスも床屋の親父もミュージカルの舞台さながらに登場するシーンは見事。思わず身を乗り出す。舞台と映画が融合した傑作と言えよう。
boyhood-poster

6才のボクが、大人になるまで。Boyhood 2014米 リチャード・リンクレイター
“本年度アカデミー賞最有力!”の惹句に偽りはない。6才の少年が大学に入り巣立つまでの12年間を、実際に12年かけて撮影した実験的作品。同じ役者とスタッフが毎年集まり、数日かけて撮りあげたという。それを12年間続けた。少年は成長し、父も母も、その再婚相手たちも自然に老けてゆく。見ている者は、本当の家族の日常を見ているのだと信じ、それぞれの人生に入りこみ、怒り、嘆き、共感する。格別ドラマテイックな展開も吃驚するような出来事も起きない。ただ少年が若者に成長する過程を一緒に見届ける…。そんな力みのない傑作である。(2014.12.23)

異色の洋画三作品

poster2

めぐり逢わせのお弁当 The Lunch Box 2013 インド 監督 リテーシュ・バトラ
かつての小津安二郎か成瀬巳喜男の映画を彷彿とさせるインド映画。まず驚くのはダッバーワーラーと呼ばれる弁当配達人の存在。お昼時、大都市ムンバイ(ボンベイ)のオフィス街は、各家庭や食堂から弁当を届けるこの配達人たちで溢れる。彼らは旦那の出勤後、家庭の玄関先に置かれた出来立ての弁当箱をヒョイとつかみ上げ、数えきれないほどの数の弁当箱を両肩にかけ、両腕に持ち、バイクで、車で、列車で旦那の待つ職場へ急行する。その数600万個という。ドキュメンタリー・タッチで描かれるこの一部始終が面白い。
この配達システムは正確無比、英国女王から表彰された等というセリフも飛び出すほどで、彼ら配達人の誇りでもあるようだ。
だがそうは言ってもたまには誤りもある。映画は誤って届いた弁当箱を介して手紙のやり取りを始めた男女の物語。微笑ましく、優しく、美しく、素敵としか言いようのない必見のインド映画。

poster_photo2152

NO ノー 2012 チリ 監督 パブロ・ラライン
チリについては南米の共和国であるという以外に、政治についても経済についても知識がない。ただ軍事独裁政権が反対派を徹底的に弾圧してきたこと、独裁者の名前がピノチェトであることは聞いたことがある。
1988年、この独裁者の信認を問う国民投票が行われ、「NO」のテレビ・キャンペーンが独裁政権を倒すのに重要な役割を果たしたという。周辺国が次々と民主化する中で、孤立するチリ。独裁反対派の活動家たちの地道な活動、民主化を求める国民の意識が巨大なマグマとなって民主化を実現したのであって、テレビ・キャンペーンが引導を渡したとは信じ難いが、事実なのだから凄い。
ここに登場する若き広告マンはNO派幹部の声を押し切って、意表をつくキャンペーン番組を作り上げた。最初は歯牙にもかけなかったYES派も世論の変化に気づき焦り始める。当然のようにこの広告マンは軍事政権側から身の危険に晒されるほどの、執拗な嫌がらせを受けるのだが、その都度なんとか切り抜ける。ドキュメンタリー・タッチのサスペンス映画風でもある。
結果、国民投票で勝つのだが、当時実際に放送されたという両派のキャンペーン番組も沢山出てきて面白い。いくら独裁政権が脆くなっていたとはいえ、CMで倒せるとは?の疑問もわくが、元同業者としては快挙として記憶にとどめたい。

f0064229_19392384

プロミスト・ランド Promised Land 2012米 監督 ガス・ヴァン・サント
アメリカという国の懐の深さを改めて知る。既に2年前、シェールガスを告発する娯楽映画が完成していたのだ。原発の代替エネルギーとしても、中東からの原油依存度を下げるためにも、シェールガスはアメリカの救世主のように見えるのだが。
この映画の主人公は大手エネルギー会社のエリート社員。経済的恩恵から見放された農村を訪れ、シェールガス採掘権の借り上げ契約を次々結んでゆく。そこに現れる環境問題の活動家。水質汚染や土壌枯渇などのキャンペーンを張り、小さな村はやがて二分される。現代社会は発電エネルギーを貧しい地方に押し付ける。全く同じ構造が世界中で起きている。
主人公を演じるマット・デイモンのエリート・サラリーマンに共感する。そしてこんな深刻なテーマを上質な娯楽映画に仕立て上げるアメリカはやはり凄い。
日本にもかつては山本薩夫(白い巨塔、金環触、不毛地帯)のような反権力の社会派監督がいたのだがなあ。(2014.9.18)

邦画ドキュメンタリーを中心に

“人類史上最高のアトラクション!”“衝撃と興奮、想像を絶する感動!”“今日、歴史が変わる!” こけおどしの惹句と騒々しい予告編にうんざりする。だから本編開始までは目をつぶっていて、本編開始とともにおもむろに遠視用眼鏡を取り出し、スクリーンに正対することにしている。映画製作者への礼儀でもある。
旅客機がミサイルで撃墜され、昨日まであった街が跡形もなく破壊され尽くす。作り物を超える現実の凄まじさを日夜テレビ画面で見る時代である。作り物はもうたくさん、ドキュメンタリーかドキュメンタリー・タッチの作品を見たい。
poster2-3

旅する映写機 2013 森田恵子
デジタル化で消えつつある映画館のフィルム映写機と映写技師、メンテ技術者を追った記録映画。映写機が映画館から映画館に譲られる道程を「旅」とした。川越スカラ座で見た。埼玉県に残った最古の映画館だそうで、地元NPOが運営している。観光客が溢れる蔵づくりの街並み/時の鐘の路地を曲がったところに、今どきこんな姿でと思うような外観で建つ。
poster2-4

坑道の記憶 2013 RKB毎日放送
炭坑夫・故山本作兵衛の『画文集 炭鉱に生きる 地の底の人生記録』には衝撃を受けたが、この作品は九州のテレビ局が制作したドキュメンタリー。かつて炭鉱映画というジャンルがあり、悲惨な炭鉱生活を問題視するものが多かったようだが、ここで描かれる山本作兵衛は人情味ある一坑夫。ただしこの老坑夫の隠居仕事が「アンネの日記」、「ベートーヴェンの第九草稿」とともにユネスコの世界記憶遺産に登録された。ポレポレ東中野「映像の中の炭鉱」で見る。
poster2-1

春を背負って 2014 木村大作
立山連峰を舞台にした山岳映画。父の急逝により、一流会社のサラリーマンを辞めて、3,000mの高地にある山小屋を引き継ぐ男とそれを支える仲間たち。登場人物は善人ばかり。ゆったり清々しい気分で木村大作の山の世界に浸る。
poster2

パークランド ケネデイ暗殺 真実の4日間
2013米 ピーター・ランデスマン
51年前のケネデイ暗殺事件。ケネデイは誰になぜ殺されたのか。この真相を探るために設立されたウオーレン委員会の調査スタッフは「122の憶測と噂」があるとしている。
本作の題名は大統領が救急搬送された記念病院の名。暗殺に始まる4日間をドキュメンタリー・タッチで再現した息もつかせぬ迫真のドラマ。切迫した救命医療シーンの演出が特に素晴らしい。
なぜ今また、と思うがアメリカでこの題材は永遠のテーマなのであろう。
poster2-2

黄金のメロデイ マッスル・ショールズ 2013米
アラバマ州の田舎町マッスル・ショールズ。ここはソウルミュージックの聖地と呼ばれるそうだ。豊かな自然に囲まれた録音スタジオが魅惑的な音を生み出してゆく。スタジオ創設者もセッションプレーヤーたちも白人なのだが、才能ある黒人歌手をバックアップし、次々ヒットさせる。ミック・ジャガー、キース・リチャーズなども登場する。音楽は人種問題を超える。
(2014.8.11)