濫読 ―昭和解体からテレビ戦争まで―

新聞の書評で、本屋の店先で、友人に薦められて、きっかけはさまざまだが、系統立てずに読了した2018年後半の図書のいくつか。


昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実 牧久
500頁の大冊である。いまや死語に近いが、日本国有鉄道(JNR)は、1987年3月31日、115年におよぶ長い歴史の幕を閉じた。
それから30年、分割・民営化されたJR7社はいま20,000㎞の線路上をいわば私鉄として列車を走らせている。
国鉄の分割・民営化は37兆円を超える累積債務の処理、人員整理による経営合理化が表向きの理由であったが、真の目的は、国労、総評、社会党の解体を企図した戦後最大の政治経済事件であった と著者は主張する。
従ってこのノンフイクション作品に登場する主な人物は、政治家では田中角栄、三塚博、加藤六月、中曽根康弘、橋本龍太郎。労組側では細井宗一、富塚三夫、松崎明。国鉄では石田禮助、磯崎叡、藤井松太郎、高木文雄、仁杉巌、杉浦喬也。財界は土光敏光、瀬島龍三、言論界は内藤国夫、加藤寛、尾山太郎と多彩。

そして主役は国鉄改革三人組と言われた三人。
井出正敬 (1935年生まれ 東大経卒 JNR入社1959年)
松田昌士 (1936年 北大法卒 1961年)
葛西敬之 (1940年 東大法卒 1963年)
の面々である。

「国鉄解体 分割・民営化」は国労、総評、社会党潰しを狙った中曽根政権にとっては大成功であったが、国鉄の体制派からすれば、この改革三人組は「国鉄一家」に弓を引き解体を企てる反逆者であった。

本書は最盛期には60万人の組合員を擁した公共企業体・日本国有鉄道の38年間に及ぶ長い闘争の歴史を、政治、経済、労働運動などの面から多角的に検証した大作である。
鉄道好き、国鉄大好き人間にとって、これは無視できない読み物であった。そして強く感銘を受けたのは、「改革三人組」の信念と正義感、そして挫折を繰り返しながらも立ちあがる勇気とバイタリテイ。
生まれも社会人としてのスタートもほぼ同じ同期生としては、政・官の強大な圧力と内部の裏切り、暗闘、保身、憎悪が渦巻く中でよくぞ耐えたものだと驚嘆する。

同じころ青年将校を気取って、親会社の横暴とそれに与する無能な経営トップ排斥に立ち向かったことがあるが、これに比べると我々のやったことは児戯に等しい。
彼ら三人組の働きは、幕藩体制を打倒し明治維新を誕生させた維新の三傑を彷彿させる。
こののち三人は、JR西日本、東日本、東海の社長にそれぞれ就任した。


軌道 福知山線脱線事故JR西日本を変えた闘い 松本創
2005年4月に発生した福知山線脱線事故は、死者107人、負傷者562人を出す大惨事になった。本書は事故で妻と妹を失い、娘も重傷を負ったある遺族のJR西日本との闘いを追う400頁のノンフイクションである。
彼を支えたのは、なぜ妻や妹、娘がこんな目に遭わなければならなかったのかという原因究明の強い意志と、職業柄災害や公害の現場で行政や企業と向き合ってきた交渉力だけ。
一方JR西日本は当初企業体の過ちを認めず、あくまで運転士個人の責任と言い張る。そしてその張本人が長く社長と会長を務めたあの井出正敬氏。
国鉄の改革三人組の総司令官として辣腕を振るった同氏は、1995年1月の阪神淡路大震災において自ら陣頭指揮に立ち、ライバルの私鉄各社より圧倒的に早く復旧を果たし、その手腕を内外に示した。
そしてそれまで「井出商店」と揶揄されていたワンマン経営者の地位をついに「井出天皇」にまで高めたのである。
古い国鉄をぶっ壊した改革派井出が、何ゆえ周囲の誰もがもの言えない独裁体制を敷くに至ったのか。今もって謎である。
加害企業と被害者が同じテーブルについて、事故原因を話し合うという前例のない試みにまで繋がったのだが、井出は最後まで遺族の前に姿を現していないという。


傍流の記者 本城雅人

ミッドナイト・ジャーナル 本城雅人
二作とも新聞記者が主人公。新聞社内には派閥があり、権力闘争があり、他メデイアとの取材競争がある。
ネットニュースが溢れ、スピードではかなわないまでも、本当の情報はクリックすれば出てくるもんじゃないと、新聞の意義を信じ、プライドをかけて真実に迫ろうとする男女の記者を活写する。

著者は元産経新聞の記者。それゆえ新聞社内や記者クラブの雰囲気が非常に良く書けている。こちらも若いころ広報部門に在籍して新製品や新技術の情報をメデイアに提供することも仕事の一部であったので、経済紙、工業紙の記者との接触も多く、彼らの行動原理や意識について一応の知識がある。

そんなこともあって、この小説に登場する東都新聞、中央日報などを、これは読売、これは朝日と置き換えて読むと一段と興趣が増す。キャップ、デスク、部長、編集委員…、取材記者とはいえ、役職を駆けのぼる社内の競争意識や対抗意識は何処の会社も同じ事。20年も前に辞めた事を忘れてしばし登場人物に感情移入する。企業小説を読む醍醐味であろう。


地名は警告する 日本の災害と地名 谷川健一
日本列島は山地がいきなり海に接して平野が少ない。急峻な河川が大部分であり、四周は海に囲まれている。こうして日本は自然災害に侵される危険な地形に満ちていて、加えて地震列島なので地名もその危険を予知するものが少なくない。

東日本大震災では宮城県名取市閖上(ゆりあげ)が津波の甚大な被害を受けた。「揺る(ゆる)」は風波が海底の砂を揺り上げて岸に押し寄せることで、閖上はそれに相応しい地名であるという。
また相模湾に面した大磯、二宮、平塚は万葉集に「相模路のよろぎの浜」と詠まれているが、「よろぎ」は「ゆる」に由来し、関東大震災では鎌倉や大磯にも津波が押し寄せ多くの死者を出したともいう。こういう事例が満載の書。


硯の中の地球を歩く 青栁貴史
著者は浅草の書道用具専門店の4代目。
硯に適した石を求めて、中国や日本の山、採石の町に足を踏み入れる。中国では山賊に襲われ、日本の山では熊を警戒しながら沢を歩く危険な旅。
硯と一緒に風呂に入る。石紋が綺麗に浮かびあがる。湯船でじっくり眺め、ゆっくりさすると硯の「ありがとう」という声が聞こえてくるという。変人の一人であろう。


影の日本史にせまる 西行から芭蕉へ 磯田道史 嵐山光三郎
『武士の家計簿』、『殿様の通信簿』を著し、NHK・TV『英雄たちの選択』をコーデイネイトする博識の歴史学者磯田道史と何が本業なのか分からない、しいて付けるなら辺境探訪家、遊湯紀行家とでも言うべき雑学の大家嵐山光三郎の対談本。

標題にあるように「影の日本史」と断るからには、西行や芭蕉は美しい芸術家ではない。彼らは権力の影で生きていた。
西行は出家するまでは上皇の親衛隊であり秘密警察、政治の中枢に直結した歌壇ジャーナリズムの寵児なのである。
一方芭蕉は江戸幕府の巡見使となる曾良と「おくのほそ道」を旅した。芭蕉の旅が諜報を兼ねていたことを否定できまい。こんな二人の対談が面白くないはずがない。


テレビ最終戦争-世界のメデイア界で何が起こっているのか- 大原通郎
業界に精通する向きには既知の内容かもしれないが、と書評にあったが、とんでもない知らないことばかり。
今や世界のメデイアビジネスの覇権はハリウッド大手スタジオやテレビ局といった旧勢力から、ITを駆使する新興勢力に移りつつあるのだそうだ。
映像ビジネスに参入したフェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグル、アップルは日本にも押し寄せ、視聴率低迷にあえぐ放送業界を追い詰めているという。
(2018.12.4)

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議会改革

早稲田大学マニフェスト研究所は毎年全国自治体議会の改革度ランキングを発表している。議会が果たすべき役割を1情報共有2住民参加3議会機能強化の3項目において、その改革度合いを数値化、ランキング化するもので、このほど今年2月に実施した全国1,781自治体議会(回答率74%)の評価が発表された。
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横須賀・猿島散歩

テレビの人気番組「じゅん散歩」にあやかって散歩シリーズを書く。たまには家人を誘って何処かへ出掛けなくてはいけないという義務感もあるのだが、肝心の家人はヒザが痛い、その日はコーラス、次の日は孫との約束があるなどと言って、なかなか誘いに乗ってこない。
独りで行くのなら、もっと別のところを考えるのだが、家人帯同、しかもこれまでに行ったことのない近郊となると、案外に行くべきところは少ない。
これまでにも「横浜ベイサイド散歩」、「草加宿散歩」、「青梅散歩」などはお目にとまったかもしれないが、今回はいくつかの候補の中から横須賀を選び出した。題して「横須賀・猿島散歩」。

むかしと違って、東京メトロ副都心線の開通は横須賀との距離を劇的に短縮してくれて、横浜を経由して京浜急行の横須賀中央駅までは2時間弱で到達する。
クルーズ船による「軍港めぐり」と夜の「どぶ板通り」の報告は別の機会に譲るとして、二人とも初めての「猿島散歩」を書く。

猿島
東京湾に浮かぶ唯一の自然の島で無人島。周囲1.6㎞、標高40m、横須賀の三笠公園桟橋から船で10分。
ところで諸兄は「島」の定義をご存知か。筆者も当然知らない。だから俄か知識を幾つか紹介する。

・島の定義 (国連の海洋法)次の3条件を満たすもの
❶自然に形成された陸地であること。
❷水に囲まれていること。
❸高潮時に水没しないこと。
(海上保安庁)
・満潮時に海岸線の延長距離が100m以上の陸地
(国土地理院)
・航空写真に写る陸地

ついでに
・日本全土の島の数➡6,852島(本土:5 離島:6,847)
・東京都の島の数➡330島(全国6位 1位長崎県971島)東京都・島の人口/28,000人 有人島13/伊豆諸島 小笠原諸島
・東京湾の島の数➡20島 人工島/月島 平和島 夢の島など無人島/猿島

さて猿島。鎖国時代から明治、昭和に至るまで首都防衛を担う東京湾の要塞の島であった。今でも旧軍の司令部跡や弾薬庫、砲台跡など煉瓦造りの施設が残っている。
歩くこと一時間。ただし海風に吹かれてふらりふらり散歩するするというより史跡巡りの雰囲気が漂う。
上陸した若い人たちも、あまりロマンテイックな気分にはなれそうもないが、海水浴シーズンともなれば、若者で溢れる我々世代には無縁の、釣りやBBQのメッカとしても人気の観光スポットであるらしい。
幸いこの日は快晴、島のてっぺんに立つと米海軍横須賀基地から三浦半島、房総半島まで一望できる。
大昔、日蓮上人が房総から鎌倉へ渡る途中嵐に遭い、猿に導かれて避難したという島の伝説が猿島命名の由来だという。立入禁止の日蓮洞窟もあったから多分本当のことなのだろう。
(2018.11.13)

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旧作、問題作、最新作−2018年後半の映画から

映画館で映画を見るという正しい鑑賞態度はブレることなく、今年も40本前後になりそうである。その中から後半、特に記しておきたい4作品を選び出す。


大いなる幻影 La Grande Illusion 1937仏 ジャン・ルノワール

亡友横尾一彦はフランスの三大名画に天井桟敷の人々(1944 マルセル・カルネ)、望郷(1937 ジュリアン・デユヴィヴィエ)と共にこの作品を挙げていた。それが高校生時代。
洋画の世界では、今になっても第三の男、ローマの休日などと並び称される存在であるから彼の審美眼は正しかったと言える。
その大いなる幻影を初めて見た。製作されて80年、公開されてから70年。この差は反戦映画とみなされて日本で公開されたのは、戦後の1949年であったから。この映画で知ったこと。
1) 脱走を描いた捕虜収容所映画の傑作第17捕虜収容所(1953
(ビリー・ワイルダー)、大脱走(1963 ジョン・スタージェス)の原点をなす。
2) 監督は印象派の巨匠オーギュスト・ルノワールの次男である。
3) デジタル修復版の画面が驚くほど鮮明で、作り方にも古さを感じさせない。戦争が生みだした収容所を舞台にした一大人間絵巻。主演はジャン・ギャバン。


タクシー運転手 約束は海を越えて 2017韓国 チャン・フン

韓国映画を見直した。1980年の光州事件をテーマに、外国人ジャーナリストが身分を隠して世界にニュースを発信するのを助けるタクシー運転手の職業にプライドをかけた戦い。悲劇的で暴力的なシーンも多いが、それをコミカルで人情味あふれるサスペンスタッチで描ききった。並々ならぬ監督の手腕。
残念ながら今年のアカデミー賞外国語映画賞は逸したが、その資格は充分。韓国国内では大ヒットの由。映画を見た文在寅大統領は「光州事件の真相は完全に解明されていない。これは我々が解釈すべき問題であり、私はこの映画がその助けになると信じている。」とコメントを残した。
天安門事件を想起させる中国では当然のように未公開で、この映画の存在も消し去られているそうだ。


華氏119 Fahrenheit 11/9 2018米 マイケル・ムーア

同時多発テロ事件を告発した華氏911から14年、アポ無し突撃監督マイケル・ムーアのトランプ批判最新作。
華氏911とは近未来小説『華氏451度』のパクリで、紙が自然発火する温度451度を真似て、同時多発テロの発生した9月11日を自由が燃える温度として表した。
その伝で言えば、今作華氏119はトランプ大統領の誕生した11月9日がアメリカの自由が消えた日とでも言うことであろうか。
マスコミに流されるトランプの常軌を逸した発言、行動、スキャンダルには飽き飽きしているので、少し違った角度からトランプを観察する。
●トランプを作り出したのは、これまでの米国民の行動、言動、議論でありメデイアの責任である。テレビ各局は視聴率が取れるからと、トランプの過激な言動を流している。
●この映画を見て悶絶するのは、オバマやヒラリー・クリントン
ではないか。既成の権威、既成の権益、既成の秩序、「既」に汚れた政、財、メデイアがトランプを誕生させた。
●トランプの登場なくしても、米国の病巣(白人=共和党vs非白人=民主党、 ウオールストリート+シリコンバレー(金融・IT)vsラストベルト(製造業)、1%の超富裕層vs99%の中流以下の階層)は爆発寸前であった。
●一国主義、独裁政治、右傾化は世界の潮流で、トランプの登場がこの傾向に拍車をかけた。そのうえ連日のように銃乱射事件が起き大量の犠牲者の発生が報じられる。
マイケル・ムーアはかつてボーリング・フォー・コロンバインでアメリカの銃社会の問題を告発したが、銃規制は一向に進まず、それどころかトランプは自衛策として教員に銃の携行を薦める。こんな大統領でいいのか。こんなアメリカでいいのか。
●アメリカ沿岸部の人たちはトランプをまともに相手にしようとしなかった。ところが、ニューヨークとロサンゼルスの間の地区には何千万人というトランプファンがいたのだ。民主党もマスコミもそれを見逃していた。まさかと思っていたあの男が大統領になってしまったのである。
自らの著書『トランプが勝利する5つの理由』で勝ちを予想していたマイケル・ムーアの慧眼には恐れ入るが、彼はまだ希望を失っていない。
解決策は民主党が上下両院を押さえ、古いタイプの民主党幹部が道を譲り、若い世代や女性が党内の主導権を握ることだと主張する。上下両院を民主党が押さえるという話は既に破綻したが、尊敬されなくなった米国に苛立つ米人は多い。打つ手はあろう。
次の民主党大統領候補には、前大統領夫人ミシェル・オバマやハドソン川の奇跡のパイロット、サレンバーガーの名前がチラついているという。オバマだって登場するまでは全く無名の存在だった。アメリカの懐の深さと良識に期待しよう。


ビブリア古書店の事件手帖 2018製作委員会 三島有紀子

5年前、舟を編むという広辞苑の編集者たちを描いた超真面目でためになる、その年のキネ旬2位の佳作があった。
その後の邦画では、あん 家路 聖の青春 くらいしか好みの作品は無かったが、今年に入って羊と鋼の森と本作が現れた。
祖母の遺品に漱石のサイン本を見つけた主人公が、その真贋を確かめるべく古書店を訪れる。古書店の若い女店主の名前が栞子、場所は鎌倉。本好きにはたまらない設定ではないか。
当初、本そのものには興味のなかった主人公だが、女店主との知的な会話を繰り返すうちに、次第に本を通じて文学者を知り、文学の世界に入ってゆく。全国の古本屋から本物の古書を借りて作ったというセットは、まさに神保町の古本屋の中にいるような雰囲気で、あの独特の臭いさえ漂ってくる。
本と本の隙間から見せる栞子が静かに本をよんでいるショットはことに美しい。「事件」という程のことは無い事件は発生するのだが、これはおまけみたいなもの。読書、文学、図書館、古本屋、これらに興味のないムキには退屈かも知れないが、その気のある人にはもう堪えられない佳作。ぜひご覧あれ。
(2018.11.20)

藤野村歌舞伎を見る


むかし農村では秋の刈り入れ後の祭礼には村人によって歌舞伎狂言が演じられ、娯楽の少ない農民にとっては大きな楽しみであったと聞く。
今でも福島県の檜枝岐歌舞伎や秩父の小鹿野歌舞伎などは、時として新聞紙面を賑わすこともある。しかしいずこも都市化の進行や後継者難によって衰退して、村の祭礼というより観光客目当てのイベントの性格も加わりつつあるようだ。
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社会風刺コント集団 ザ・ニュースペーパー公演を見る

これから三年も、不誠実な安倍政治と付き合うのかと思うとはなはだ憂鬱である。まさか総裁任期をこれ以上延ばそうとまでは言わないだろうが、今の自覚なき何でもありの安倍政権
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米大手IT企業の映画産業への進出

GAFA(ガーファ)ともFAANG(ファング)とも呼ばれる米大手IT企業のメデイアへの進出が目覚ましい。ITに詳しい若い人には既知の事実かもしれないが、こういう事に疎い我々世代は話題に追いつくのがやっとである。でも知らないでは済まされない世の中になってきたので、入門書片手にいくらかこの辺の事情に詳しい仲間のレクチュアを受ける。 続きを読む: 米大手IT企業の映画産業への進出

新語・流行語から見る中国社会の変化

共立女子大・秋の公開講座を受講する。李錚強教授による標題の講演。「言葉は社会の鏡である。社会が変わればそれを反映して新しい言葉が続々と誕生してくる。」との前置きに始まり、1978年の鄧小平による改革・開放政策以降、未曽有の新語発生が今日まで続いていることを講じる。 続きを読む: 新語・流行語から見る中国社会の変化

異常気象の災害列島

短期間に今年の重大ニュース入り間違いなしの災害が立て続けに発生した。大阪北部地震、西日本豪雨、長期間の異常高温、巨大台風の襲来、北海道地震…。
政府発表やマスコミ報道は、その都度何十年に一度のとか、統計を取って以来初めてなどのまくら言葉を並べる。
確かに40度を超える猛暑日の連続、関西空港を冠水させ、大阪の街を吹き飛ばした台風21号、水浸しの倉敷市街や広島市の土砂崩れ、北海道の山崩れなどの現実は日頃の防災意識や訓練ではとても対応できないレベルを思わせる。

これらすべてを地球温暖化に原因を求めるのは容易であるが、右翼的発想とは別に、自然災害から国土を護る長期的な計画策定は絶対に必要である。

そしてこうした大災害が起こる都度、常に問題になるのは大きすぎる自治体の弊害である。平成の大合併は地方分権の推進、行政の効率化などを目的に全国の市町村数を半減させた。(2016年時点で1,741市町村)。
しかし広域合併は災害発生時に問題点を露呈する。合併された町には町議会や町役場が無くなり意思決定機能を失った。物事を決めるのは遠く離れた県庁や市役所、市議会になり、復興計画なども、その地域の実情とはかけ離れた大型の土木工事などになりやすい。
その上、合併の目的には人減らしもあるので職員の絶対数が減った。そのため目に見えない人間関係や災害の恐れのある場所も熟知していたベテラン職員がいなくなった。異動で別の地域に移ったケースも多い。

加えて、自治会や町内会組織が次第に機能しなくなりつつあるという現実もある。
県や広域市では大きすぎ、住民からは遠すぎるのである。災害対応という面からは平成の大合併は失敗という声もある。
もちろん合併によるメリットを享受している住民は多いのだろうが、聞こえてくるのは不便になったという声ばかりである。

合併により出来上がった広域市の市名を幾つか挙げてみる。驚くことに市が律令制時代の国名を名乗り、そこが何処に位置するのか判断に苦しむものも多い。

例えば「奥州市」。東北6県の総称みたいな名称で、余程地理に明るい人でないと、市役所が何処にあるのか分らない。
甲州市」。概念上は人口20万人の甲府より大きそうだが、実態は1市1町1村が2005年に合併した3万人の街である。
瀬戸内市」というのも酷い。瀬戸内海の何処に面する都市なのか。クイズマニアでもない限り岡山県とは知るまい。
南アルプス市」に至っては、鉄道の通っていない市として名高いとホームページにある。
徳島県の「阿波市」、岐阜県の「飛騨市」、静岡県の「伊豆市」なども文句を言いたいところである。

旧聞に属するが、10年前の能登半島地震の折、震源地は輪島市に編入されたばかりの我が故郷であった。
当初「輪島」と聞いて、朝市で有名な海岸線辺りを想像していたが、やがて震源地はそこではなく、輪島の市街地から十数キロ離れた内陸の門前町、つまり我が故郷と分かって大いに慌てた事がある。ことほど左様に広域合併の弊害は存在するのである。
(2018.9.25)

翁長雄志さんの潔さ

20日の自民党総裁選も、30日の沖縄県知事選も自分の気に入らない結果に終わりそうな気配を感じるが、ここではそのことを書くつもりはない。
書きたいのは翁長さんの死に方である。7月27日、最後の記者会見となった写真をみると帽子を被っているから、多分抗癌剤治療による頭髪の抜けを見せたくなかったのだろう。しかしマイクの前に立つ姿と表情には死を予感させるものはない。

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御巣鷹の尾根

日航ジャンボ機が群馬県の山中に墜落して死者520人を出すという航空史上最大の事故発生いらい34年が経った。
8月12日が近づくと新聞各社は思いだしたように特集を組み、テレビは神流川の灯篭流しを報じるが、日航社員でも当時を直接知る人は少なくなり、この大事故も過去のことになりつつある。
ところが自分には何故か何時までもこれに惹かれるものがある。なにゆえだろうか。 続きを読む: 御巣鷹の尾根

傘寿

正月、五月の連休、夏休み、かつては煩わしいほど押し寄せてきた7人の孫たちも成長するにつれ、一堂に会することが少なくなった。
それでも7人の間には、なにやらネットワークらしきものがあるようで、時として親そっちのけで、彼ら彼女らにとっては 続きを読む: 傘寿

2018年前半の映画から

映画界最大の話題は、是枝裕和監督『万引き家族』のカンヌ最高賞受賞と国の祝意を辞退したことであろう。
作品の内容については多くが語られているので省略するとして、是枝は“映画がかつて国益や国策と一体化し、大きな不幸を招いた過去の反省に立つならば、平時においても公権力とは潔く距離を保ちたい”と発言して祝意を辞退した。その言や善し。

ところがこれに対し例によって、国の助成金を貰っているのにけしからんとか 続きを読む: 2018年前半の映画から

JR北海道はどうなる?

JR北海道をめぐる議論が喧しい。我がコラムでも毎年数回はこの問題を取り上げている。
JR北海道頑張れ(2013年)
廃線かJR北海道7路線(2015)
JR北海道から目を離せない(2015)
JR北海道赤字路線の命運(2016)
細るJR北海道の鉄路(2017)

昨年9月には「宗谷本線の音威子府以北は必要ですか?」という音威子府村の異例の問いかけに、仲間と議論した結果を村の地域振興室に送っている。それくらい北海道が好きだし、JR北の消長に関心がある。 続きを読む: JR北海道はどうなる?

『本のエンドロール』安藤祐介著 講談社

全国出版協会の調べによると2017年の出版市場は、紙の書籍・雑誌の売り上げ:前年比▲7%の1兆3,700億円。電子コミック・雑誌・書籍など、電子の市場は16%増の2,300億円。
しかも紙の市場は13年連続してマイナスであるという。細かい数字に興味はないが、世の中の動向からは多分そうなんだろうと思う。


小説『本のエンドロール』はこうした紙離れ、活字離れが進むなか、「本造り」に情熱を燃やす中堅印刷会社の若い営業マンの物語である。 続きを読む: 『本のエンドロール』安藤祐介著 講談社

大規模災害と鉄道貨物輸送の重要性

「平成30年7月豪雨」と命名された先ごろの集中豪雨は、西日本の鉄道各線に甚大な被害を与え、復旧に一か月以上要する路線は10路線、800㎞を超えた。
とくに中国山地の山間部を走る芸備線、木次線などは復旧に一年以上かかるとも言われ、今年3月に営業運転を終了した三江線に次いで廃線の噂も出始めた。鉄道ファンとしては、そんなことにならないことを祈るが、深刻なのは物流の大動脈・山陽本線の寸断である。
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津軽の旅━❻青函航路と北海道新幹線

青函連絡船の最終運航からすでに30年。津軽海峡を最も長く往復した八甲田丸(8,313トン 全長132m)がメモリアルシップとして、青森第二岸壁に繋留されている。最後に乗船したのが、この船だったかどうか記憶は定かでないがとても懐かしい。 続きを読む: 津軽の旅━❻青函航路と北海道新幹線

津軽の旅━❺無人の五能線

秋田県の東能代駅と青森県の川部駅を結ぶ147.2㎞の地方交通線、つまりローカル線である。土・日・祭日には「リゾートしらかみ」なる観光列車も走っているのだが、平日は直通する列車も日に一、二本の超閑散線である。しかし単線・非電化のこの線は、それ故に鉄道ファンには人気が高い。 続きを読む: 津軽の旅━❺無人の五能線