ナイトキャップ Night Cap

不眠症解消のためにリキュールやブランデーなどアルコール度数の高い酒を就寝前に飲むことをナイトキャップという。寝る前にかぶる帽子のことではない。
眠るために寝酒を飲むことを習慣にすると、飲まないと眠れないことになり、アルコール依存症の原因にもなりかねないと医者は警告する。自分にその習慣はないが、相当量呑んで帰った夜の方がすぐ眠れるし、長く眠れるのは事実である。だがそのために仲間を長時間足止めするのは、懐にも健康にもよくない。

そこで自分の場合のナイトキャップはと考えると読書ということになる。本を読むことにかけては人後に落ちないと思うのだが、読みながら自然に眠りにつける本となるとジャンルは限られる。
政治や時事問題を扱う本は、こいつら許せないと興奮して逆効果だし、ミステリーなどの謎解きものは、犯人は誰?と真剣になって眼が冴えてくるし、鉄道本は時刻と路線を見ている内に、過去の行跡を思いだして比較しはじめるから眠れなくなる。
しからば難解な本ならいいかというと、これは全くダメで、最初から脳が寄せ付けないから没入する前に投げ出してしまう。

こうなると著者には誠に失礼になるが、しばしば山口瞳、江国滋両氏の紀行文をナイトキャップ代わりに手にすることになる。いずれも故人だから許してもらおう。
枕の脇には山口瞳の『酔いどれ紀行』、『迷惑旅行』、『草競馬流浪紀』や、江国滋の『英国こんなとき旅日記』、『伯林感傷旅行』、『スイス吟行』などが積まれている。
ふたりに共通するのは、50歳台の彼らの人間観察や世間を見る目の優しさが何の抵抗もなく、ごく自然にスーっと気持ちに入ってくること。そして語彙の豊富さと比喩の巧みさに感心しながら、うまいなあこの表現、羨ましいなあこの才能、俺もこんな風に書けたらなあ、ムニャムニャ・・・と目を閉じバタリと本を取り落として眠りにつく。
あっ!もう一人いた、小沢昭一。だがこの人は巧い上にお色気がやや濃厚で、時として眠るというより起こす効果がある。ナイトキャップにならないことが難点である。
(2019.1.29)

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