米内義人さん逝去

P1020889

6月13日、教育映画作家米内義人さんが亡くなった。享年84歳。神鋼電機の広報時代、今も残る科学映画の名作『振動の世界』、『水と農業』の企画者とシナリオ・ライター、監督という立場で知り合った。
爾来45年、映画を語りあえる数少ない友人として交際を続けてきた。しかしトシには勝てなかったようで、春先の便りでは“盛り場へ出かけて映画見物などは夢のまた夢、専らDVDやテレビ放映の映画を見るだけの生活”とあった。しかし同封されていた「この一年で見た映画のリスト 題名と私の評価」には289本の作品名と評点が記されているから、映画好きといっても尋常ではない。根っからの映画人であった。

そして先日、既に用意されていたのだろう、父が生前に書き残しておりました手記を本にまとめましたとご長男から『映画と私』と題する160頁の小冊子が送られてきた。
それを読むと、彼の映画熱は中学一年の時に点火されたようで、「読書に濫読があるように、私は映画を見まくった。高校生になってからは、将来は映画をやるんだと決めて、映画にのめり込んだ。映画代に事欠いて昼飯代を流用し、それでも足りないので、映画館に頼み込んで看板絵を描かせてもらった。それで町の映画館の出入りが自由になった」。とあるから、ただの映画好きとはレベルが違っていた。

かくして日大映画科、学研視聴覚部、東映教育映画、桜映画、東京文映でキャリアを積み重ね、1980年以降はフリーの作家として、教育、文化映画の脚本家、演出家として名を成した。
この間、制作に携わった作品数は数百本、受賞作も数知れない業界の有名人であった。同書によれば、自身の代表作として1978年の『水車から電気へ』を挙げている。キネ旬は「日本が急速に近代化する過程を鮮やかに描き出して、文化の許容と消化という日本的な特色をとらえることに成功している」と評し、科学雑誌『自然』は「これ以上簡潔に産業動力の変遷を描くことは思いもよらない。ぐいぐい迫ってくる」と激賞した。この年は他に、地方病撲滅との闘いを描いた異色作が、日本の寄生虫医学史の感動の記録と絶賛され、科学映画祭において当時の皇太子から賞状を受けたとある。

短篇業界は劇映画に比べれば地味な世界であるが、彼のような優れた作家と一時期一緒に仕事ができ、その後もお付き合いが続けられたのは幸せであった。
まだ30代も前半の頃、企業PRの一環として、“後世に残る産業映画”を作るとトップを説き伏せて成功作を生んだことはサラリーマン時代最大の思い出である。この時の脚本・演出が米内義人さんで撮影は名カメラマンの故豊岡定夫氏であった。当時のことがこう書かれている。

スクリーンショット 2015-02-04 10.58.10
振動の世界 1971年
神鋼電機の大作が入った。自社の振動発生器のPRを超えて、振動の科学の現状を捉えようと東大生産技研の亘理先生を監修者に、その人脈で建築、鉄道、船舶、車両などにカメラを向けた科学映画という企画はたぶん田谷さんの発案だろう。
たまたま各所で大規模な振動実験が行われるという幸運に恵まれて、撮影対象は贅沢なものになった。撮影は豊岡氏。科学映画の撮影技法のすべてを活用して、振動を見事な映像に捉えて、その年の日本撮影協会の最優秀撮影賞を獲得した。科学映画祭では最高賞、教育映画コンクールで金賞、シカゴの科学映画祭で創造芸術賞、リオの産業映画祭では最優秀監督賞をもらった。産業映画祭で個人賞は前代未聞か。

水と農業
水と農業 1974年
神鋼電機のスプリンクラーのPR映画という枠をこえて、日本農業の伝統的な水使いの知恵と明日の農業の展開を描く大作。撮影、編集のどの段階でもトヨさんと大揉めした。私は文化史、トヨさんはミクロ。心配した田谷さんがしばしば銀座で二人を呑ませてくれたが、悪酔いばかり。しかしキネ旬は「ポイントを水に絞った狙いの面白さが、構成の巧さと素晴らしい画面によって明快に示されて、見事な成果を挙げた」と最大限に褒めてくれた。キネ旬の第4位、教育映画祭の文部大臣賞。俺の映画作りは間違っていなかった!得意の絶頂だった。

あれから45年、かつての仕事仲間がまた一人去った。
田谷英浩(2017.7.28)

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中