伏見稲荷大社の喧騒

観光目的で日本に来る中国人に、日本のどこに行きたいかと聞くと、「中国人がいないところ」と答える人が増えたという。
大いに笑える話である。バブル最盛期、世界の何処に行っても日本人だらけの頃があった。そんな時、ことさら同邦を無視するかのような態度を取る人がいた。もともと人間には“自分だけ”といういやらしいところがあるので、ホテルのエレベータの中で、プイと横をむかれたり、ツンと済ましている人間が確かにいたように思う。ともかく人間の本性にはいやしいところがあるのだ。

観光立国日本を宣言いらい、訪日外国人旅行者が急増して、昨年は2,400万人に達したという。その25%が中国人。大声で話す、うるさい、ところかまわず写真を撮る、あまり彼らの評判は良くない。
そんな彼らが大挙して観光都市・京都に押し寄せる。宗教にあまり興味のない彼らは、お寺の建物と庭だけを見て足早に去る。奈良では大仏より奈良公園の鹿に人気があるそうだ。
道路は観光バスで大渋滞、市内バスはスーツケースに占拠され、住民は大迷惑。儲かっているのは民泊とドラッグストアだけちゃう?と京都人はぼやいている。
従って古都の歴史と文化、静寂を期待する日本人の足は遠のく。昔は修学旅行シーズンと紅葉の季節だけは外そうとしたが、今は何時もダメ、当分京都は止めにしたという友人も多い。

こちらも京都好きでは人後に落ちない。卒業後、勤務地の「鳥羽」を鳥羽伏見の戦いの鳥羽と思い込んでいて、三重県の鳥羽と分かったときは、大いに落胆したものだ。
爾来50余年、京都市内の有名寺社、仏閣はあらかた廻り、サラリーマン生活後半には、祇園や先斗町の落着いた横丁も馴染になった。

それでも積み残しはいくつもあり、その一つが伏見稲荷であった。
願いごと万事OKのお稲荷さまが目的ではなく、真っ赤な鳥居が延々と続く風景を見たかったのである。

3月の平日、しかしこれは見事に裏切られた。ここが三年連続、外国人に人気の日本の観光スポットであることを知らなかった。
JR奈良線の稲荷駅から本殿に至る道も、稲荷山への参道も脇道も、初詣の浅草寺か明治神宮を思わせる人人人の波。それも聞こえるのはアジア系外国語ばかりで、日本語は全く聞かれない。
千本鳥居どころか数万本はありそうな真っ赤な鳥居のトンネルも、上り下りのすれ違いの人と、立ち止まって写真を撮る群衆で身動きできない。まったく前へ進めない。しばしたたずんだあと、ほうほうの体で退散する。これは信仰の世界ではなく、まさしく観光、それもレベルの低い。

こんなところに押し寄せる外人観光客の気持ちが分からない。こんなところの何処が面白いのだろうか。何処に興味をひかれるのだろうか。真っ赤な鳥居が延々と続くことが日本的なのか、拝観料不要、閉門時間なしが魅力的なのか。摩訶不思議の世界である。

京都駅バス乗り場の雑踏といい、延々長蛇の列に並ばざるをえないレストラン、食堂といい、いずれも我慢の限界を超えている。
それでも大気汚染のひどい北京からやって来た人からは、風光明媚な日本を中国のリゾート地にしたいという恐ろしい声も挙がっているという。クールジャパンなどと浮かれていると、観光日本を丸ごと乗っ取られるかもしれない。
田谷英浩(2017.5.15)

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