こんな映画こそ大ヒットしてほしい

一日に3本、立て続けに話題の新作を見た。旧作を名画座系でまとめて見ることはあっても、新作3本は貴重な初体験。


人生タクシー TAXI 2015年イラン
監督 ジャファル・パナヒ
ジャファル・パナヒは20年間の映画監督禁止令を受けながらも、自らタクシー運転手に扮して街を流す。そして情報統制下のテヘランの街で暮らす乗客たちの人生模様を描き出す。
タクシーのダッシュボードに置かれたカメラを通して見せられるのは、
死刑制度について議論する教師と強盗、海賊版レンタルビデオ業者、交通事故にあった夫と泣き叫ぶ妻、金魚鉢を手にして急ぐ二人の老婆、強盗に襲われた幼なじみ、政府から停職処分をうけた弁護士など、まあ普通の人びととの日常的な会話。
なかで学校の実習で映画を撮影中の小学生、監督の姪が面白い。“本当のことを撮るのが映画なのに、なぜ本当のことを撮ると上映できなくなっちゃうの?”とあどけなく語らせる。
女性弁護士とのやりとりや、この姪に体制批判を語らせ、他の乗客にはイランの息苦しい日常を語らせる。勇気とユーモアにあふれた作品だが、当然の如くイランでは上映禁止とか。

なお本編上映の前に、森達也制作の「これは映画か映像か」という共謀罪を念頭においた短編が上映された。日本の作家も発言を始めた。


午後8時の訪問者 La Fille Inconnue 2016年ベルギー/フランス
監督 ジャン=ピエール・ダルデンヌ、 リュック・ダルデンヌ
この邦題からは、これがサスペンス映画であることを予告される。
しかし原題は、直訳すると『未知の女の子』。観客を騙すあざとい手口かと邪推したが、そうではなかった。
診療時間を過ぎて鳴ったドアのチャイムを無視した若い女医は、翌日発見された身元不明の少女の遺体が前夜助けを求めた少女であることを知らされる。少女の死は事故なのか、事件なのか。ドアホンに応じなかった女医は自身の良心や正義に葛藤する。はじめは医師を恨む復讐劇の傑作『眼には眼を』の系列の作品かと思ったが、医師を追い詰めるのは犯人ではなく、誰にもある自責の念。
そしてオーソドックスな人間ドラマがサスペンス風に展開されるなかで、次第に真相が明らかになる。ダルデンヌ兄弟という監督は「天才」と言われる人らしい。誇大な演技も大袈裟な音響もなく、たんたんとストーリーが展開される。映画ってこれでいいんだよな と思わずつぶやく。
ハリウッド製CG満載の騒々しい映画の対極にある傑作と言えよう。

蛇足:邦題はごくありきたりだが、多分これでよかったのだろう。
先年大ヒットした『アナと雪の女王』の原題は、Frozen、つまり凍結。このままだったらあれほどの観客を動員できまい。ついでに過去の名作の成功例を挙げておく。
Waterloo Bridge→哀愁
Summertime→旅情
My Darling Clementine→荒野の決闘


わたしは、ダニエル・ブレイク I Daniel Blake 2016年イギリス
監督 ケン・ローチ
2年前の『ジミー、野を駆ける伝説』で引退を表明していたケン・ローチ監督80歳の最新作。労働者階級に焦点を当てた作品を作りつづけてきた老監督は、待てよ、最後にこれだけは言っておきたいと再びメガホンを取ったのだろう。

初老の失業した大工の視点でイギリス社会の現状を告発する。雇用支援を受けようとする側への役所の形式的な対応と煩雑な手続き、パソコン社会に順応できない老人たちへの無理解、貧困に追い詰められる弱者の恐怖、ゆりかごから墓場までといわれた英国の社会保障はどうなっているのか。いまの日本にも通じることばかり。終盤、ダニエル・ブレイクは小さな行動を起こす。時の権力にはあまりに無力だが、いま各地で散発する共謀罪反対デモにも似て切ない。
働けど貧しい、だが屈しない。人としての尊厳を失ったら終わりだとケン・ローチはダニエルに語らせる。本コラムのタイトル「こんな映画こそ大ヒットしてほしい」はこの作品に対する山田洋次のメッセージ。
みなさん、これは必見ですぞ!
田谷英浩(2017.5.1)

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