シンポジウム「吉田調書」を超えて

むつかしいことをやさしく書くのは難しい。書く方の力量が試される。今回がまさにそれである。
新年早々、岩波書店『世界』編集部の主催する福島原発事故―何が究明され、何が究明されていないのか―のシンポジウムに参加した。
講師は原子力の専門家田邊文也氏、科学ジャーナリスト田中三彦氏、弁護士の海渡雄一氏。海渡氏は脱原発の弁護士として全国各地を飛び回っているが、福島瑞穂さんの旦那としても有名(夫婦別姓を実行するため婚姻届けを出していない)である。

まず「吉田調書」
聞いたことあるが、何だっけ?のレベルになっているかもしれない。それまで極秘扱いされてきた事故当時のF1所長吉田昌郎氏への聞き取り調査の内容を朝日新聞がスクープしたもので、のちに一部誤報があるとして取り消された。
しかし事故当時の混乱と危機的状況を生々しく伝えた勇気ある調査報道であり、その後の各種の検証で今では正しいものと信じられている。
海渡弁護士は「事故の真相は分からないことが山積している。朝日の取り消しが真実に近づく道をつぶしてしまった。なぜ取り消したかは今もって分からない。しかし事故を調べれば調べるほど、この記事は正しいと確信している」「朝日はこんな重要な報道をなぜ全部取り消したのか。記事の取り消しそのものを取り消せ。」と力説する。

「事故の真相」とは何か。
現在、東電元幹部を被告人に刑事裁判が行われている。筋論から言えば、ここで事故の真実が明らかにされ、正当な裁きが下されることになるのだが、果たしてそうなるか。
ただ政府事故調や東電株主代表訴訟などにおける証拠提出によって、津波対策に関する新しい証拠がつぎつぎ明らかになりつつある。重要な点を幾つか挙げる。

●2002年7月 三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価が公表された。津波マグニチュード8.2前後の津波地震の発生する可能性あり。
●2006年3月 金沢地裁志賀原発二号炉運転差し止め。
●2007年7月 中越沖地震で柏崎刈羽原発3,000か所に故障発生。
●2008年3月 明治三陸沖地震の津波波源モデルを福島沖海溝沿いに設定した場合、津波水位の最大値15.7mの試算。
●2008年9月 東電内部に「福島第一原子力発電所津波評価の概要」の資料あり。ただし同日の議事概要には「津波に対する検討状況は機微情報のため資料は回収、議事メモには記載しない」とあり、この文書は会議終了後回収された。
東電は対策をとらねばならない状況にありながら全社を挙げて必死に隠蔽していた。
●2011年3月7日 東電は15.7mという数値を含むシミュレーション結果を国に報告。
●その4日後 大地震発生 津波浸水高11.5~15.5m

〇東電は「事故は想定外の津波」を原因とするものであり、法的責任はないとの主張を繰り返したが、これは真っ赤なウソである。東電は運転停止を恐れ、老朽化した原子炉対策のために多額の費用の掛かる工事を決断できなかった。
〇被告人らは不可避の対策を遅らせることを目的にした。東電元幹部の刑事責任はもはや明白である。
〇この過程で、政府事故調、保安委の報告書にも重大な証拠を隠し、真実の隠蔽に手を貸したと言わざるをえないことが多く、東電を庇い続けた事は明白である。

この日、お茶の水の明大駿河台キャンパス会場の定員は150名。立錐の余地なしとはこのことを言うのかと驚くほどの超満員。参加者は一見して活動家というより、真実を知ろうとするかなり知的水準の高い人たちとお見受けした。シンポジウムは更に続く。

昨年の科学ジャーナリスト賞を受賞した田邊文也氏の指摘も鋭い。「事故対応にはレベルに応じて、事象、徴候、シビアアクシデントの三種の手順書がある。それがあるにも係わらず使われなかった。適切に使われていればこの事故は防げた。
蔑ろにされた事故対応手順書の扱いが問題である。事故は偶然が重なり、あのレベルで済んだ。幸運というべきである。
「万が一」にも「稀ではあるが」発生する場合のために、手順書、マニュアルに従った日常の訓練が必要にも係わらず、起きるはずがないと無視してきた。緊急時の東電の対応力に問題があった。
吉田所長はメンテ部門の人で、運転のプロではなかった。吉田氏には覚悟はあったが、能力は無かったと言わざるを得ない。
ただし能力はあっても、覚悟の無い人であったらどうなっていたであろうか。」

「われわれは今後どうすべきか」
マスコミは連日トランプの功罪を大見出しで論じ、フクシマは蚊帳の外である。しかし故郷に帰りたくても帰れない人は未だに10万人近くいるわけだし、常磐線だって全通していない。福島原発事故は決して終わっていない。
我々は例年、3・11周辺に「漂流するフクシマ ふるさとは今」と題した写真展や映画の上映会を行っている。先日の幹事グループの話し合いでは、今年は脱原発論者に転じた小泉純一郎氏か当事者の菅直人氏を呼ぼうかとの意見も出た。実現は難しそうにも思えるがトライするのも悪くあるまい。
田谷英浩(2017.1.26)

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