2016年の5冊


住友銀行秘史 国重惇史 講談社
住友銀行のイメージダウン必至。こんな銀行にはとても金を預けてはおけないと預金を引き上げる顧客が出ても不思議はない。そんな強烈な印象を残す一冊である。
「戦後最大の経済事件と呼ばれたイトマン事件」。バブル最盛期の頃、中堅商社イトマンからゴルフ場開発や絵画取引を名目に数千億円のバブルマネーが裏社会、政界に流れ込んでいた。
この処理をめぐるメインバンク住銀幹部の暗闘が凄まじい。実名で登場する人物は法皇堀田庄三、天皇磯田一郎を筆頭に実に73名。
当時新聞の社会面を賑わした裏の伊藤寿永光、許永中。表では竹下登、金丸信なども登場するが、彼らはここでは脇役。
主役はあくまで会長、頭取の顔色を窺いながら旗幟を鮮明にすることなく、あっちについたり、こっちについたりする情けない役員連中である。ここには東大卒も京大卒もない。あるのは醜い派閥争いと出世競争だけ。
著者はかつて大蔵省担当、いわゆるMOF担を長く務めたエースで、自ら「国重の前に国重なし、国重の後に国重なし」と書くくらいだから相当の自信家。その彼が住銀を救うのは俺しかいないと豊富な人脈を利用して、住銀の生き残りを画策するかたわら、大蔵省とマスコミに内部告発状を送り続けた。行動は多少疑われたようだが、最後まで露見しなかったのは見事だし、行内の情報収集範囲の広さと集まる情報の質の高さ、処理の上手さには脱帽する。

経済小説というジャンルに触れたのは、城山三郎の『役員室午後三時』が最初で、当時社内改革の意気に燃えていた。親会社、銀行から送り込まれる役員とプロパーの対立の中で、改革派を気取って、高杉良や清水一行ものを読み漁った。しかしこれらにはモデルはあっても所詮創作の世界。ところがこの『住友銀行秘史』は著者の書き留めた実際のメモと日記のドキュメンタリー。
当時億単位の金に汲々としていた身には、数千億の金がろくなエビデンスもないまま遣り取りされていたことに、驚き呆れ怒りがこみ上げる。取り澄ました銀行窓口の裏側ではこんなとんでもないことが行われていたのだ。


水力発電が日本を救う 竹村公太郎 東洋経済新報
著者はダム屋を自称する元国土交通省の河川局長。化石燃料はいつか枯渇する。原子力は安全性に疑問がつく。
既存のダムを生かすことで年間2兆円超の電力を増やせる。日本のダムは水を半分しか貯めていない。それは「特定多目的ダム法」という50年以上も前の法律が足枷になっているから。法律を改正して、ちょっと手を加えるだけで現在の水力発電の何倍もの潜在力を引き出せる。とダム屋は力説する。


沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか 安田浩一 朝日新聞出版
沖縄における新聞発行部数は約36万部。その中で「琉球新報」と「沖縄タイムス」の2紙で32万部を占め、県内は2紙体制である。自民党側からはこの2紙の報道が常に偏向とうつる。そこへ作家百田尚樹の「あの二つの新聞社はつぶさなあかん」発言が出た。これを契機としてジャーナリスト安田浩一がいわば同業の二社の現役・OBの記者から取材を重ねたノンフイクション。


鉄道は誰のものか 上岡直見 緑風出版
ブルートレインなどの廃止が発表されると、駅のホームには最後の姿を撮ろうとマニアが詰めかける。つい先だっても、廃線になる留萌線の増毛駅に数千人のファンが押し寄せた。日頃は数人の乗客しかいない駅に。JR北海道は自社単独ではもはや維持できないと10路線、1,200㎞のギブアップを表明している。
マニアや鉄道ライターでなく、れっきとした環境政策の専門家である著者は、本書で「ローカル線は本当に赤字なのか」、「地域の持続性に必要な鉄道」、「バス転換は地域消滅への道」と警鐘を鳴らす。自説と異なる主張も多いが傾聴に値する。いちど会って論戦してみたい。


分断社会ニッポン 朝日新書
日本人は貧乏になった。生活レベルが目に見えて落ちてゆく中、多くの中間層が低所得層との境目で必死に踏みとどまっている。
自分がギリギリのところで、「中」にとどまっていると信じたい多くの日本人は格差の問題を他人事として受け止めている。しかし今の日本は「格差大国」と呼んだ方が実態に近い。

本書は気鋭の財政学者井手英策、例の佐藤優、民進党の論客前原誠司の鼎談。正規・非正規、高齢者問題、子供の貧困、税金と財源、など格差大国ニッポンの現状と処方箋が語られる。
田谷英浩(2017.1.14)

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