映画を語ろう


太陽の蓋  2016太陽の蓋プロジェクト 佐藤太
東日本大震災と福島第一原発事故。国民の記憶が次第に薄れてゆく中で、政権側はあろうことかフクシマを無かったことにしようとしている。しかし志の高い映画制作者は“とんでもない!フクシマは終わっていない”と告発する。
本作品の主題は“あの時官邸で何が起こっていたのか?”
突然の激しい揺れ、津波、原発の電源喪失と冷却機能停止、水素爆発、撤退をめぐる議論…。映画は官邸と東電の意思疎通の欠如、保安委や原子力物理学者の無能、のちに知ることになる混乱と無責任、無秩序を実名でドキュメンタリー風に描く。
しかし如何せん取り組んだテーマが大きすぎた。官邸と東電、真相を追う新聞記者、原発作業者とその家族、どれ一つとってもゆうに一本の作品になる。そのすべてを二時間のドラマに収容するには些か無理があったと言わざるを得ない。
多分ハリウッドなら大金を投じて骨太な政治ドラマ、社会派ドラマに仕立て上げたろう。それくらいこのテーマは重いし、隠された真相に迫る値打ちもある。
翻って日本映画界にも昭和64年の少女誘拐殺人事件を『64ロクヨン』前・後編として製作するだけのエネルギーがまだある(ただ長いだけの作品ではあったが)。ならば取り組むべきテーマはこれではなかったのか。

さらに残念なのは渋谷ユーロスペースでの単館上映が二週間程度で終了したこと。最近の空気から、何処からか圧力でもかかったかと邪推するが真相は不明。しかしもし単に入りが悪いだけの理由ならマスコミにも責任の一端はある。時として映画評欄にどうでもいいようなアクション映画を見受けるが、そんな余裕があるのなら、問題作、意欲作としてこれを取り上げるべきではないのか。朝日にさえ見当たらなかった。
社説だけが新聞社の論調のすべてでは無かろう。映画評においても、収束なぞしていない福島の現状と原発推進の危険性を発言すべきである。残念ながら「作品」としてのデキは高いとは言えないが、本作に携わったすべての制作者、スタッフ、キャストの意欲を高く評価したい。


殿、利息でござる!  2016製作委員会方式 中村義洋
歴史学者磯田道史の原作ものと聞けば、磯田ファンとしては何を置いても駆けつける。期待にたがわぬ快作。
“これも世の貯め、人の貯め”というふざけた惹句そのままに、藩に大金を貸し付け、利息を巻き上げる、つまりお上から年貢を取り戻す逆転の発想。知恵と勇気があればどんなピンチも脱出できる!


トランボ  TRUMBO 2015米 ジェイ・ローチ
これは非常に今日的な映画である。政権の意向を忖度して問題提起型、告発型の作品を作ろうとしない日本の脚本家、演出家必見の作品である。
悪評高い赤狩り、マッカーシズム吹き荒れる中で脚本家ダルトン・トランボは一歩も引かなかった。挙句、有罪判決、投獄。
出所後仕事の無い彼は偽名を使ってB級作品を書きまくる。この逆境の中で彼は『ローマの休日』や『黒い牡牛』を書き上げアカカデミー賞を受賞する。
ほぼ24時間、タバコを咥え、タイプライターをかたときも離さず打ち続ける姿は超人的。いくら食うため、家族のため、意地のためとは言いながらも、その姿は崇高でさえある。
映画ファンとして嬉しいのは、当時のニュース・フィルムや似た役者を使って本人がいっぱい出てくること。トランボを告発する側に、ジョン・ウエインやエリア・カザン、守る側にカーク・ダグラスやオットー・プレミンジャーが登場する。
これに華を添えるのが奥さん役のダイアン・レイン。名作『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984年 ウオルター・ヒル)の歌姫も60歳過ぎのおばさんになっていたが、あの時の炸裂するロックのリズムが鮮やかに甦った。


ロイヤル・ナイト A Royal Night Out 2015英 ジュリアン・ジャロルド
71年前、19歳のエリザベス王女はバッキンガム宮殿を抜けだし、ヨーロッパ戦勝記念日に湧くロンドン街中でお忍びの一夜を過ごした。『ローマの休日』を彷彿とさせる実話だそうである。
それにしても『クイーン』(2007)、『英国王のスピーチ』(2011)、『マーガレット・サッチャー』(2012)、こうした映画の制作を認める英国王室の懐の深さと国民性に感心する。


マイケル・ムーアの世界侵略のススメ Where to Invade Next 2015米 マイケル・ムーア
『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002)、『華氏911』(2004)、『シッコ』(2007)、『キャピタリズム~マネーは踊る』(2009)…。
自国アメリカを痛烈に批判してきたマイケル・ムーアが今回は、アメリカよりましなやり方をしている国々を見てくるぞ!と星条旗を掲げて旅に出る。有給休暇の多いイタリア、学校給食の凄いフランス、女性の社会進出の先頭をゆくアイスランド…。
どこまでが本当だろうかと首をひねるシーンも出てくるが、冗談交じりの語り口が楽しい。何かと力で勝負をつけたがるアメリカに対する警鐘である。
田谷英浩(2016.8.15)

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