魚くめ

斜度30度はあろうか川越街道、白子坂の中程から少し成増寄りの右手に“魚くめ”という魚屋があり、我家は鮮魚といえばここ以外で買うことは無く、その買い出しは“お手伝い”という名のぼくの役割でした。何故歩けば小1時間、自転車でも15分は要しようかという、ここまで行ったかというと、朝霞駅前にある二軒のそれは一見して不潔で生臭い匂いをふりまき、特に“まあちゃん魚屋”の不潔さかげんと言ったら無かった。
汚い魚屋
それに比べ“魚くめ”は裏山から湧き出る豊富な清水を樋をつかって引き込み、常に包丁、まな板を清めていたので、おぢさんのゴムの前掛けも長ぐつも魚の血一滴も、うろこの一枚も付着なく、清潔だった。
特に刺身に至っては、私はここ以外の店のものは箸を付けなかった。魚を洗った血で汚れた樋の水で掃いたまな板上で、またその汚れた水でぬらした包丁で切られた刺身は……とてもとてもだった。しかし他の魚屋は店内に井戸があるわけではなく、大抵は共同井戸に水汲みに行かねばならず仕方なかったといえば、その通りかも知れないが……。

“魚くめ”はここから一丁ほど下った東埼橋手前を右へ折れると百涯荘という料亭があり、反対に左に折れ四、五丁北へ行くと“水車”という大きな大衆料理屋があって、そこが得意先であったらしく、住宅地からも新倉駅からも成増からも離れていたが繁盛していた。ちなみに百涯荘は映画スター長谷川一夫が林長二郎の頃から東京での隠れ遊びの宿であった事は知る人も知ることであった。
金ちゃんの紙芝居

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