暴走(房総)老人会ピンチ

主役がダウンした。詳述するには憚られる部分もあるが、同世代の仲間として許される範囲で経緯を記しておきたい。
房総半島の真ん中、峯岡牧場の下に瀟洒な山荘を構える児玉威さんとの交流がはじまって10年、いまでは年に二、三回仲間数人とそこを訪れ、魚を捌き、酒を呑み、深夜まで語りあうのが恒例になった。あたかも自分の別荘のごとき振舞いができるのだが、それを可能にするのは、訳けあって主役が独り身であるからである。だから男だけの世界が実現する。晴耕雨読を絵に描いたような他人も羨む生活というわけだ。会名も自然、「暴走老人会」と名付けられた。

その彼を病魔が突然襲った。
「9月下旬、急に頭がおかしくなり、記憶力がなくなり、新しいこと、数字、人の名前が覚えられなくなった。様子を見ていたが、食欲もなく、12月中旬鴨川の病院で診てもらったところ、アルツハイマー型認知症の診断を受け、薬をもらった。今後ますます悪くなるか、せいぜい現状維持だろう。」

これは今年に入って連絡が無いのを不審に思った60年来の友、根岸紀雄さんの問いに応えた本人のメールである。末尾には「このメールもミスタッチで何度も打ち直した。」とある。慌てて電話した根岸さんが確認したのは、「病院、買い物以外は外出しない、するのも億劫。他人にも会いたくない。この家も終の棲家と考えていたが、手放さねばならぬ事態もあろう。身の回りの整理も徐々に進めている。」という気弱なもの。

さあ大変! 内心では彼はこの優雅な独身生活をいつまで続けられるのだろうか?と考えないでもなかったが、高揚した気分の滞在期間中にそんなことは考えられなかった。

一本というのか、ひと竿というのか数十万円はしそうな釣り竿や、世界の銘酒、壁一面にはそれこそ目の下三尺の鯛を釣り上げて満面笑みの写真、そして何処で獲ったのか小動物や鳥の剥製類、こんな非日常に溢れた空間ではサキのことを考え難い。

房総半島を四駆で駆け巡っていたタフガイ児玉威は何処へ行ってしまったか!この10年、彼と遊んだ「房総」は強烈なインパクトを与えてくれていて言葉がない。

さてこういう事態が実際に起きてみると、気軽だったはずの独り身生活がすべて悪い要因に考えられる。もともと山奥だから周囲にヒトが住んでいない、家族がないから話し相手がいない。近くに発破をかけ、激励する人がいないのだから全く刺激のない24時間である。

都内に住む妹さんが兄の異変に気づき行動を開始したようだ。彼女の意向は、できるだけ早くひとり住まいを解消させ介護ホームへの入居を進めたい。山荘の処分を進めたいが簡単には行かないだろう。相続第一順位の別れた奥さんの子供に確認をとりたい、など悩ましいことも多そうだ。
先月仲間と激励に訪れたが、こちらの名前が出ないのには聊かがっかりした。しかし高校時代からの60年来の友人と、僅か10年の付き合いでは、その長さと深さにおいて圧倒的な差があることを認めざるを得ない。
周辺に同じ事情の人もいるが、男のハダカの付き合いとしては決定的な違いがある。仮に彼がこのままでは暴走老人会も幕を引かざるを得ない。無念残念の極みである。田谷英浩(2016.3.10)

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