ミステリーバスツアー

「2月生まれの貴女にお贈りするミステリー」のパンフレットが家人に届く。毎年こんな案内が来ていたらしいが、“どうする 行ってみる?”とこちらの顔色をうかがうのはこれが初めて。
旅行は自分で計画する段階がいちばん楽しいと日頃公言しているので、家人から誘われることは滅多にない。
どうやら結婚50年旅行を密かに考え始めたこちらに先手を打って、安上がりに済まそうとする魂胆らしい。
孫に調子を合わせすぎて膝を痛めて以来、大好きだったゴルフは止めているし、先年の米国旅行で長時間乗物に乗るのはもうこりごりと言っている。25年前には銀婚旅行と銘打って7日間かけて北海道の未乗区間に全部乗り、当時の国鉄全線完乗に協力してくれたが、あれから四半世紀、金婚旅行のスケールは年齢相応に著しく小さくなった。
ミステリーツアーのパンフを覗き込むと、「5つ星の宿」、「巡りきれない27種の湯殿めぐり」、「料理長こだわりの和会席」など、行き先は別にして、興味をそそる惹句満載である。ツアー料金と集合場所、時間等から推測すると、福島県の東山温泉か芦ノ牧温泉あたりが目的地かと思うが、行き先不明というクイズめいた興味も湧いてきて、意外にもその日が待ち遠しくなってきた。

2月26日早朝、35人の高齢夫婦を乗せた大型バスは東京外環道を東に向かう。車内は“どうせ暇だ、何処へでもいいから連れてってくれ”的雰囲気の、この種のバスに乗り慣れているとおぼしき客が半分、残り半分は“どこのインターで下りるのだろうか?
右へ行くのだろうか、左へ行くのだろうか?”興味津々の表情で身を乗り出して前方を凝視する。
こちらはそれをネタに隣席の人と賭けでもやりたい気分なのだが、本当にやりかねないこちらを察して家人は牽制する。
添乗員は芝居がかった口調で「とある道路を通って、とある温泉に行きます」以外は多くを喋らない。運転手も呼吸を合わせて、インターの手前になると左車線に入るから、ここで下りるのかと思うのだが、直前でバスを走行車線に戻したりする。“おいおい!バス事故が頻発しているぞ、冗談は止めてくれ!”と言いたいところだが、ラッシュを過ぎた高速道に車影は薄い。

こうして東北道に入ると思い込んでいたバスは常磐道に入る。関東の高速道は、この数年で東関東道、北関東道、圏央道などが完成していて、遠回りにはなるが何処へでも行ける。
やがて友部JCTが近づく。“水戸の偕楽園で梅見だ、そのあと袋田の滝だろう”の声も上がったが、敢え無く無視されて小名浜漁港での昼食となった。
まるかつ」という食堂には見覚えがあった。ゴルフの帰り、旅行の途中、漁港に面したこの店でメシを食った記憶が何度かある。
一階は鮮魚店なのだが、3・11大津波に襲われた町の惨状を伝える写真が壁いっぱいに貼られていて、5年後のいまもショックを受ける。昼飯もそこそこに付近を見て廻る。震災直後、朝霞に避難してきた小名浜の家族がいたが、あの人たちは今どうしているだろうか。支援とは名ばかりのお手伝いをしたことを思い出す。

大震災後、三陸海岸の津波の爪痕を見たし、女川、石巻の復興状況も見聞したが、小名浜は初めてである。しかし等しく感じるのは大掛かりな防潮堤やかさ上げ道路の建設など復興予算がハード事業に費やされ過ぎではないか。本当の被災者救済になっているのだろうか。実際のニーズはこれだろうかと素朴な疑問を抱く。

三陸では、ただでさえ高齢化と人口減少の進む過疎地に、人間を高台に追いやり、生活と海を遮断する巨大な構造物を作ることが本当に正しいのかと考え込んだ。
工事が完成する頃には、住む人がいなくなっているのではないかと危惧する。戦争や災害に乗じて暴利をむさぼる「惨事便乗型開発手法」というのがあるそうだが、大震災後の日本はそうなっているのではないか。

三陸に比べれば、小名浜一帯は首都圏に近い工業地帯でもあり、同列に論じられないが、海岸線に展開する巨大なコンクリート工事、流された住居跡にポツンポツンと立ちつつある真新しい軽量鉄骨の住まいを見ると、これが計画的な復興計画なのか、新たなまちづくりなのかと考え込む。

今回のミステリーバスツアーは、結果として行き先は知っているところばかりであったが、その謎めいたスケジュールと被災地の復興状況を見た事で、非常に収穫があった。

この先バスは塩屋崎灯台郡山の開成山大神宮を経て磐梯熱海温泉に到着。これが今回の目玉だった。宿は「華の湯」という客室165室の高層ホテル。ウリは風呂の数。展望風呂だ、庭園風呂だと風呂の中で迷子になるほどの数で、その中を各旅行社から送りこまれた高齢の客が喜々として、ヨタヨタと温泉を楽しんでいる。さっき見てきた土木工事との差が著しい。日本はお目出度いなとも思うが、この人たちが今の消費経済を支えているのは間違いなく、こちらもその一人として有難く湯船に浸かる。

二日目は喜多方の酒造を訪ね、お土産を買わされ、鶴ヶ城に上り、会津武家屋敷を見る。
そこからはミステリーなし。19時大宮着、解散。田谷英浩(2016.3.7)

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