ポレポレ東中野とドキュメンタリー映画

JR東中野駅前に客席102のミニシアターがある。ポレポレ東中野というこの小さな映画館の自慢のひとつは客席一席あたりのスクリーン面積が日本一であることだ。
このポレポレという奇妙な言葉はスワヒリ語で、ゆっくりゆっくりという意味だそうで、時間に追われて生きている現代人に、もっとゆっくり楽しくやろうよという館主のメッセージでもあるようだ。
しかしながらこの劇場で上映される作品にはゆっくりとリラックスして楽しめる性質のものは少なく、多くは新人作家による問題提起型のドキュメンタリーである。
だから鑑賞する気分は、真紅の椅子に深々と腰を下ろしてゆったりとはならず、1カット、1シーンも疎かにすることなく画面に正対して深く考えるということになる。

天皇と軍隊
天皇と軍隊 Le Japon lEmpereur et lArmee
2009仏 渡辺謙一
6年前に制作されたフランス映画で安保法制の議論が活発になった8月に公開された。しかしこの時は連日、小森陽一氏、小熊英二氏、高橋哲哉氏、樋口陽一氏らのトークイベント付きだったため、入場券が取れなかった。そんな騒ぎが一段落した10月8日、かつて半藤一利の『昭和史』を読み合った仲間と見る。それにしても何故フランス映画なのか。
渡辺謙一監督のプロフィルによると、岩波映画入社20年後、パリに移住しフランスや欧州向けTVドキュメンタリーを数多く制作しているらしい。その人が制作協力にTBSを得て欧州から日本を見る視点で描いた。
1947年12月7日、天皇は広島に巡行し原爆ドームと2万人の市民の前に立ち、手を振りヒョイヒョイと帽子を掲げる。広場を埋め尽くす群衆からはやがて万歳の声が上がる。イギリス王立戦争博物館から入手したという映像に強い衝撃を受ける。
生き残った広島市民は原爆投下を肯定したのだろうか。戦争を終わらせるためには仕方のないことだったとして。
昭和天皇の戦争観がナマの音声で伝えられる。崩御前の記者会見、原爆投下の是否を問われて天皇は答える。「戦争というものは…、それも仕方のないことです」。
天皇制、戦争責任、軍部、憲法、靖国、東京裁判、慰安婦、自衛隊、日米安保…、日本の戦後史で議論され続ける問題に驚くべき豊富なアーカイブ映像とジョン・ダワー氏、ベアテ・シロタ・ゴードン氏らのインタビューを交え、将に息もつかせぬテンポで戦後70年、日本の辿った歴史が突きつけられる。これは万人必見のドキュメンタリーである。
9年前、昭和天皇を主人公にした純然たる劇場映画『太陽』が公開された。イッセー尾形が天皇に扮したロシア映画の傑作であった。この時も思ったが、こういう野心的なものを作れない日本の映画界は実に情けない。


戦場ぬ止み 2015日本 三上智恵
「いくさばぬとうどうみ」と読む。米軍普天間飛行場の辺野古への移設に抵抗する人たちを描く。反対派の船を阻止するための海上保安庁の船と海上で軽口を交わす様子や、地元の容認派とされる人たちの複雑な様子も描かれる。
我々はこんなに激しい抗議活動がいまも続いていることを知らない。そしてこれでも変えられないことに無力感を覚える。我々は沖縄の人々と連帯しないでいいのか。

波伝谷に生きる人びと
波伝谷に生きる人びと 2014日本 我妻和樹
三陸の志津川湾沿いに波伝谷という80戸余りの小さな漁村があった。人びとは牡蠣や海鞘、ワカメなどの養殖と丘陵地での農業を営んでいた。大震災の三年前、この村にキャメラを持った若者がやってきた。
2011・3・11は、この東北の寒村の日常と祭りを収めた映画のまさに試写会の日であった。

ここまでがポレポレ東中野での三作品、以下を新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、えびすガーデンシネマで見る

一献の系譜
一献の系譜 2015日本 石井かほり
北陸新幹線の開業とともにテレビドラマにも旅番組にもやたら能登が目立つ。奥能登を故郷にするものにはご同慶の至りだが、早くブームが去って落ち着いた能登に戻って欲しい気もする。
まさかそれにあやかった分けでもあるまいが、本作は能登半島出身の杜氏たちを追った酒造りのドキュメンタリー。ただし過酷な労働、辛く厳しい現場という割にはあまり辛くも厳しくもない通り一遍の画面ばかりで、杜氏の仕事が伝わらない。
これならいっそ杜氏を置かずにデータ管理で銘酒造りを成功させた山口の「獺祭」に対抗して、杜氏こそ日本酒造りのいのち!ともっと杜氏を泥臭く描けばよかった。残念ながら製作意図不明の駄作と言わざるを得ない。

シャーリー&ヒンダ
シャーリー&ヒンダ Two Raging Grannies
2013 ノルウエー デンマーク ホバルト・ブストネス
シアトル在住の92歳と86歳の老女二人が「経済成長って永遠に続くの?」という素朴な疑問をひっさげて、ワシントンの大学教授やウオール街の経済アナリストに会いに行く。行く先々で迷惑がられるのだが、これぞ怪作。マイケル・ムーアの突撃スタイルに似て痛快。

ロバート・アルトマン
ロバート・アルトマン Altman 
2014 カナダ ロン・マン
“ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男”の惹句に釣られたが然程のことは無い。アルトマン映画は『ナッシュビル』も『ロング・グッドバイ』も見ているが、断然『今宵、フィッツジェラルド劇場で』が面白い。もう一度劇場で見たい筆頭である。
(2015.10.11)

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