高橋治と小津安二郎

6月13日、86歳で亡くなった高橋治氏は富山県八尾町の祭り「おわら風の盆」を全国的に有名にした小説『風の盆恋歌』の作者である。だが映画の世界に詳しい者にとって、高橋治は小津安二郎監督の下で名画『東京物語』の助監督を務めたこと、小津の人間像を描いた人物伝『絢爛たる影絵』の勝れた作者であること、同書が数多の小津伝の中でも出色の評伝、論考として評価されていること、さらに彼の同年代に松竹ヌーベル・バーグを誕生させた大島渚、篠田正浩、吉田喜重、寅さんの山田洋次がいたことの方が重要である。

さて日本を代表する映画作家に小津と黒澤明を挙げることに異を唱える人はいないだろう。しかし高橋は、のちに“世界の”と呼ばれるこの小津の下を『東京物語』一本で去り、数年後には松竹そのものを辞めてしまった。それは何故か?
『絢爛たる影絵』は当時の映画業界、とりわけ松竹という会社はどのようなものであったか、巷間噂された小津と原節子の関係はいかなるものであったか、小津と木下恵介の両雄は並び立ったのかなどを興味本位に陥ることなく緻密に分析し、じっくり書き込み、発表された年の直木賞にノミネートされた。
そんな力作と貴田庄著『小津安二郎文壇交遊録』を再読して、昭和の文化・文芸を記憶にとどめることにする。

日本映画界の頂点に立った小津
第1期
昭和7年 生まれてはみたけれど
昭和8年 出来ごころ
昭和9年 浮草物語
第2期
昭和16年 戸田家の兄妹
昭和17年 父ありき
第三期
昭和24年 晩春
昭和6年 麦秋
昭和28年 東京物語
小津は自分と同年齢の観客の鑑賞にたえる作品を作った。40代、50代の自分をそのまま作品に投影した。小津の作品のストーリーは総て二行で書けると言った人もいる。

ヌーベル・バーグの最大の特色は圧倒的な不入り
大島渚  日本の夜と霧
田村孟  悪人志願
吉田喜重 血は渇いている
高橋治  獣の奢り (改題:非情の男)
右翼の圧力により削除やリテイク多く自作ではないようなものにされたと高橋は言う。

「映画は綜合芸術といいますがね、小津先生に限りそれは違います。あれは一人芸術です。小津先生が一人で作ったもので、私なぞはただ出演させて貰っただけです。」笠智衆

「小津組はこれ一本きりですから」高橋
「一本きり?なぜだ」小津
「何本ついても同じじゃないですか。なにもかも小津さんがやるんですから」高橋
高橋はこう反抗して去った。

〇小津と交流をもった文豪は川端康成、谷崎潤一郎、里見弴、志賀直哉、永井荷風などである。
〇戦前は小説を映画の上におくという考えが一般的であり、小津でさえ、小説家とりわけ志賀直哉を崇拝していた。
〇戦後、映画の地位が上がり、小津も有名になると映画と小説はちがうものという考えが生まれてきた。

〇小説に大変好きなものがあって、それを頭の中で映画に組み立てても、どうも小説から受けた感銘とはまるで別物のものになってしまう。小説を映画化しなくても、自身のオリジナルの方がイメージを正確に気も楽にできる。小津

〇里見弴の原作を映画化(彼岸花、秋日和)したものが多いが、映画と小説は内容がかなり異なっている。これは大まかな内容を決めた後、里見は小説を書き、小津はシナリオを書いたことによるもので、里見の原作を映画化したものではないからである。
〇『暗夜行路』、『細雪』、『雪国』などの映画化に小津は手を染めていない。東宝で『細雪』を撮るという話があるのを聞いて、身の程を知らぬ奴らだと憤慨したという逸話がある。

〇小津は永井荷風の『断腸亭日乗』の熱心な読者であった。『東京物語』に登場する東京の下町や銀座は荷風が夜ごと徘徊した場所である。
〇小津の日記には後年、荷風の影響が強く表れており、用いる言葉や文体が『断腸亭日乗』風になった。

一九五三年六月十二日(金)
哺下出社 別に用もなければ月ヶ瀬にて黒麦酒一本をのみ て薬局 本屋によりて帰る 字源一本購ふ このところ朝に夕に酒をのまず のまざれバ なくともすごし易し
就床 枕上荷風日乗をよむ

〇名作『東京物語』の主人公は尾道に住む老夫婦である。尾道を選んだ背景には志賀直哉の存在があった。志賀は尾道水道を眺める棟割長屋のひとつで『暗夜行路』を執筆した。
(2015.6.29)

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中