富士山麓一周「まご鉄」の旅

30年くらい前“国鉄の全線に乗った”と言うと多少好奇の目で見られたが、その後の鉄道ブームで稀少性はなくなった。
コンテンツ不足のBS各局は国内のJRローカル線や私鉄を乘り尽くし、今や世界の鉄道に触手を伸ばしている。
ところでこの世界、男の世界だと思っていたが、既に「鉄子」は普通名詞化し、「ママ鉄」というジャンルも現れた。
「鉄道ファン」、「レールファン」という人種は内田百閒のむかしから存在したが、「鉄ちゃん」と一括りにされることを潔いとしない連中は自らを「乗り鉄」、「撮り鉄」、「録り鉄」と分類し、鉄道に対する情熱の深さを「鉄分」が濃い、薄いと表現すると言うから恐れ入る。
こういう連中は十把一絡げにして「鉄キチ(ガイ)」と呼べばいいと思うのだが、既に「テツ」だけでこの世界は通るそうだから、正統派「鉄道愛好家」としては喜ばしくもあり、苦々しくもある。

さてこうした風潮の中で、孫のひとりにかなり濃度の濃いのが現れた。二、三才の頃は孫全員がプラレールを部屋中に這わせて夢中になり、親の出費をずいぶん心配したものだが、やがて次第に興味を失っていった。しかしここにきて我が後継者が現れた。なんと開業当日の「上野東京ライン」に乗ってきたというのだから恐れ入る。先を越された。

その孫、丈クンがこのほど目出度く中高一貫校の名門栄光学園に入学した。春休みには何処かへ乗りに行きたいという。鉄道に乗ることを今から目的化していて後継者として非常に有望である。
そこで丈を「まご鉄」と名付けることにした。母親麻子に確認すると、本当に楽しみにしているようで毎晩時刻表を眺めているという。結構、結構!本物らしい。大いに気に入った。
そこでまず手始めに本人の住む相模原市の橋本駅を起点にして橋本駅に戻る一方通行の片道切符のプランを考える。

3月23日、橋本(横浜線
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八王子(中央線
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甲府(身延線
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富士(東海道線
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茅ヶ崎(相模線
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橋本、という富士山麓一周の一日中鉄道に乗るだけの小旅行(314㎞)に出かけた。
朝9時、八王子の特急列車ホームに“やあ!”と右手を上げながら、「テツ」は馴れ馴れしい態度で登場した。どっちが主催者なのか分からない。しかし受験勉強から開放されてホッとした様子もうかがえる。
まご旅に指定席は勿体ないと「あずさ7号」の自由席車に乗り込んだが、これが大混雑。大月までは立ったままを余儀なくされた。しかし大月では富士五湖方面に行くのであろう、かなりの乗客が降りて空席にありつける。車内でのゲーム禁止、居眠り禁止を言い渡してあったので、「テツ」は通過する駅名を読み取ろうとしたり、トンネルの数を数えたり、車窓に展開するぶどう畑やピンクに染まりつつある桃畑に眼を凝らし、「テツ」としての将来性を感じさせる。これなら後継者としても充分やれそうだと内心ほくそ笑む。
甲府では途中下車印を押してもらい、乗り換えの30分余りを利用して、いったん駅前広場に出る。
“ここは人口20万人の山梨県の県庁所在地である。むかし武田信玄が…”と一席ぶとうとしたが、そんなこと知ってるよ! と可愛くない。
甲府からはガラ空きのワイドビューふじかわ6号で身延線を辿る。“ここは下部温泉である。信玄の隠し湯として名高い。”
“ここは身延である。日蓮宗の総本山身延山久遠寺がある。”しかし何でも知っていそうなので、それ以上は言わないことにする。

富士宮で途中下車、目的は白糸の滝見物。駅周辺には時分時だが食堂の類が見つからない。B級グルメで有名になった富士宮名物焼きそばは現地でと言うことにしてバスを待つ。この日は快晴で富士山の眺望が凄い。あまり大袈裟に反応しない「テツ」だが、その見上げるような大きさとどっしりした重量感には圧倒されている。30分後日本三名瀑白糸の滝に着く。バスを降りるあたりから、ゴウゴウと滝の落下する音が聞こえる。幅200m、高さ25mの崖から富士山の雪解け水が伏流水となり白い糸を垂らしたような景勝をつくる。何度見ても素晴らしい。華厳の滝、那智の滝の高さには敵わないが、野外の円形劇場の超大型舞台を見ているようなこの滝は素晴らしい。さすがの「テツ」も感激している。

富士宮駅に戻り富士行きの電車を待つ。それにしてもこの駅のホームはとてつもなく長い。ゆうに客車20両くらいは発着できそう。「テツ」もなんだ?これは、と驚いている。多分むかしは富士登山の富士宮口として、浅間神社への参詣客を東京方面から大勢運んだに違いない。富士駅の線路構造は東海道線の東京寄りからの直接乗り入れを可能にしている。富士駅からの東海道線は「旅」というより「仕事」の客満載で情緒には著しく欠ける。

17時、「テツ」が寿司を食いて~と言い出した。時々行く熱海の「磯丸」に連れて行く。が、あいにく月曜日で既に営業終了。それではと小田原でも降りるが、駅前に回転寿司屋が見当たらない。
子供には好みのものが際限なく食べられる回転寿司が人気だ。こちらも懐の心配がなく、それはそれで有難い。しかしなければしょうがない。平塚でまた降りる。三度東海道線を降りたが、数年前までやっていた寿司屋は廃業したらしくケーキ屋になっていた。こうなったら意地、「テツ」は平塚の商店街を走り回り、やっと寿司屋を見つけ出した。
“やあ-終わったネ。”と熱燗とお茶で乾杯する。最後の相模線は暗闇の中、二人とも熟睡。21時橋本着。こうして第一回「まご鉄」の旅は終了したが、早くも次を考えているらしい。おそろしい (2015.4.4)

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