奥能登プラス4_荒天の奥能登と金沢香林坊

深夜プラス1』(Midnight Plus One ギャビン・ライアル著)というミステリーの名作がある。これを読んだきっかけは題名が洒落ているから。
週報を書きはじめて17年、いつかこれをもじって、タイトルにしたいと考えていた。
能登には墓参に、観光に、親戚の法事に、と数えきれないほど足を運んでいて、美しい風景も、触れたい人情も、美味い魚や野菜についても書き尽してしまった。もう報告すべきことがない。
そこで題名でおやっと思わせ、気を惹こうとする最後の手段である。加えて旅の名人を自称し、駄文を披露するからには、単なる墓参報告で済ませたくない。ご先祖様には申し訳けないが、一工夫した旅行記としてお読みいただきたい。

今回の奥能登には朋友西山聖君が全日程同行してくれた。
昼は運転手兼観光ガイド、夜は呑み役に徹してくれて楽しい上に心強い。かつて北陸支店長を任じていた人物で、奥能登の地理や歴史につては、地元出身を名乗る自分よりも詳しいのだから嫌になる。
“こっちを廻った方が近い、美味いのはあの店、あそこの民宿の嫁は…”という具合である。先年の名画『最強のふたり』みたいで、足らずところを補い合いながらの二人旅となった。
彼の博識と陶芸に代表される趣味の良さ、それに美食家の面目がいかんなく発揮され、帰宅後家人は、“よくそんなに長く、男二人でいられたわね”と嫌味ともつかない感想を漏らしていたが、女には分からないのだ!
こうして11月11日、5日間の旅が始まった。

荒天の奥能登と金沢香林坊
行く季節にもよろうが、こんなに荒れた能登は久しぶりであった。日本海は轟々と吼えるし、輪島の朝市は早々に店仕舞いした。
こうなると目玉は曽々木海岸の「波の花」になる。もちろん知ってはいたが、こんな盛大に歓迎されたのは初めてである。
海水中に浮遊する植物性プランクトンの粘液が岩にぶつかるたびに、空気を含んで白い泡状になる。その泡のことを「波の花」と言うのだそうだが、強い風に煽られて雪のように舞い海岸を覆う。能登の冬の風物詩と言われるものを、初めて本格的に見た。強風で開かない車のドアをやっとの思いで押し開け海岸に立つ。吹き飛ばされないように身体を支えながら、カメラを構えるのだが、黄色味をおびた泡が烈風に煽られ、全身にまとわりつく。
カメラもたっぷり塩分を浴びる。早々に車内に戻り、乾いたタオルで拭う。こんな天候にならないと現れないのなら、「波の花」見物は観光資源にはなり難いが、しかしいいものを見た。
その足で「揚げ浜塩田」に立ち寄り何時ものように「塩」を求めるが、五代目角花豊さんに元気がない。聞くと今年奥さんを亡くしたそうだ。強風吹きすさぶ日本海の古民家のような家でひとり冬を越す。最古の製塩法を守る人と言われるが、なにか悲しい。

Korinbo_Sekihi

金沢の繁華街、香林坊を訪ねるのも定番コースである。
今回は『日本の居酒屋文化』(マイク・モラスキー著)が褒めまくっている「いたる」で呑ろうと決めていた。けばけばしいネオンやいかがわしい看板、提灯とは無縁の横丁にあり、この店はなかなかにいい雰囲気を醸していた。これなら間違いあるまいと入りかけると、“ご予約のお客さまですか”と問われる。えっ予約が要るのと一瞬たじろぐ。

小料理、割烹を名乗るならともかく、居酒屋に予約はないよなと思うのだが、空席の目立つカウンターに入れてくれない。
こちらは一見の客、問答していても仕方ないので、じゃやっぱり何時もの「五郎八」にしようと向かうのだが、この日の金沢に何があるのか知らないが、知っている店はどこも満員。
結局はじめての店に入ったが、居心地の悪いまま、まずい酒と肴で二人とも不機嫌。“居酒屋なら予約など取らず、来る客を次々入れるべきだ。”と西山君はまだ怒っている。
兼六園の紅葉かアベノミクスか知らないが、繁華街に賑わいを取り戻したのは大いに結構だが、我々は面白くない。
こうした気分は三晩目の輪島「どんぶらこ」で解消するまで続いた。呑み屋の怨念は恐ろしい。
ここでは店主の心のこもった料理とうまい酒、女房のような存在という女将との会話も楽しく能登の良さを再確認した。
ただし酔った勢いで来年また来るなどと約束したのは何時ものことながら、軽はずみであった。

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